病院の月次報告や経営会議で、必ずと言っていいほど登場する「延べ患者数」と「実患者数」。なんとなく似た言葉に聞こえますよね。でも、この2つを混同してしまうと、病院の本当の姿が見えなくなってしまうんです。
今日は、この似て非なる2つの指標について、初心者の方から経営層の方まで役立つように、じっくりお話ししていきます。
延べ患者数と実患者数とは
延べ患者数とは、ある期間における患者の来院回数・在院日数を合計した数値のこと。同じ人が複数回来院・入院すれば、その回数分カウントします。
一方、実患者数とは、同じ期間に病院を利用した患者の実際の人数のこと。同じ人が何回来ても、1人として数えます。
つまり、「延べ」は延べ回数、「実」はユニーク人数と理解するとわかりやすいかもしれません。両者の関係性を理解することで、病院の稼働状況と患者の広がりを立体的に捉えることができるんです。
初心者向け解説
少し想像してみてください。お気に入りのカフェに、月に5回通ったとします。お店側から見ると、あなたという「実人数1人」が、「延べ5回」来店してくれた、ということになりますよね。病院もこれと同じ考え方なんです。
たとえば、外来のAさんが1ヶ月に3回通院し、Bさんが2回通院、Cさんが1回通院したとしましょう。このとき、延べ患者数は3+2+1で6人。実患者数はA・B・Cの3人となります。同じ月の同じ患者層を見ているのに、数え方によって数字が大きく変わるんですよね。
では、どちらが大事なのでしょうか。実は、見たいものによって使い分けるのが正解なんです。「どれだけ病院が稼働しているか」を見たいなら延べ患者数。「どれだけの人に医療を提供しているか」を見たいなら実患者数。それぞれ役割が違うわけです。
病院では、医師は自分の外来の混雑度を延べ患者数で把握することが多く、医事課や経営層は収益との関連で延べ患者数を、地域連携室や経営企画は患者の広がりを実患者数で確認します。立場によって注目するポイントが違うのも、この2つの指標の面白いところじゃないでしょうか。
中級者向け解説
もう少し踏み込んでみましょう。延べ患者数は、外来であれば「来院延べ人数」、入院であれば「在院延べ患者数(在院日数の合計)」を指します。入院の場合、月初から月末まで30日間入院していた患者さん1人で、在院延べ患者数は30人分としてカウントされるんです。ここ、少し難しく聞こえるかもしれませんが、病床利用率や平均在院日数を計算するうえでとても重要な考え方になります。
たとえば、病床利用率の分子は「在院延べ患者数」です。同じ200床の病院でも、長く入院する患者が多い病院と、短期回転の患者が多い病院では、実患者数は大きく異なるのに、在院延べ患者数(つまり病床利用率)は似た数字になることがあるんですよね。これが、延べ数だけ見ていると見落としてしまう落とし穴のひとつなんです。
また、よくある誤解として「延べ患者数が増えた=患者が増えた」と思ってしまうケースがあります。実はこれ、必ずしも正しくないんです。再診回数が増えただけで、新しい患者は減っているという状況も十分起こりうるわけで、そういうときは実患者数を見ないと真実が見えてきません。
建前としては「両方見ましょう」と言われますが、現場の実態として、月次レポートに登場するのは延べ患者数のほうが圧倒的に多いです。理由は単純で、収益と直結しやすいから。1人の患者が何回も診療を受ければそれだけ診療報酬が発生するので、経営側が気にするのは自然なことなんですよね。
数値感覚として、200床規模の中規模急性期病院では、外来の延べ患者数が月15,000〜20,000人前後、外来の実患者数は月7,000〜10,000人前後となることが一般に多いと言われます。比率としては、延べ÷実で1.5〜2.5倍程度に収まるイメージでしょうか。診療科の構成や慢性疾患の比率で大きく変動するため、自院の傾向を把握しておくことが大切です。
上級者向け解説
ここからは、経営判断の視点で深掘りしていきましょう。延べ患者数と実患者数の比率、つまり「再診比率」や「来院頻度」と呼ばれる指標は、病院の機能や経営戦略を映し出す鏡のような存在なんです。
たとえば、延べ÷実の値が高い病院(3倍以上など)は、同じ患者が何度も来院している状態。慢性疾患の管理が中心で、通院頻度の高い患者層を抱えていることを示します。一方、この比率が低い病院(1.3〜1.5倍程度)は、新規患者の比率が高いか、紹介・逆紹介を活発に回している、いわゆる急性期型・連携型の運営をしている可能性が高いと言えます。地域医療支援病院や紹介率・逆紹介率を重視する病院では、後者の数値が出やすいんですよね。
2024年度の診療報酬改定以降、外来機能の分化がより強く打ち出されています。紹介受診重点医療機関への移行を進めるなら、「実患者数の新患比率」「逆紹介率と連動した実患者数の入れ替わり」をモニタリングする必要が出てきました。延べ患者数だけ追っていると、外来機能分化の流れに乗り遅れる、いわば構造的なリスクを抱えることになります。
もうひとつ、ベンチマーク視点でお伝えしたいのが、DPC病院における入院の「在院日数短縮」と在院延べ患者数の関係です。在院日数を短縮すれば、当然1患者あたりの在院延べ患者数は減ります。これを「病床利用率の低下」として悪い指標と捉えがちですが、実患者数(つまり新たに受け入れた患者数)が増えていれば、地域への医療提供量はむしろ増えているわけです。経営層がこの構造を理解していないと、「在院日数を短縮したら利用率が下がった、けしからん」という議論になりがちで、現場のモチベーションを削いでしまいます。
BIツール・データ分析の視点では、延べ患者数と実患者数を時系列で並べ、「実患者数の新規・継続の内訳」「診療科別の再診頻度」「曜日別の来院パターン」などをダッシュボード化することで、外来戦略の意思決定が一段深くなります。一歩先の問いとして、「自院の延べ÷実の比率は、戦略的に妥当な水準か?」を経営会議の議題に乗せられているでしょうか。多くの病院では、ここまで踏み込んだ議論はまだ少ないのが実情です。
計算式・指標の見方
延べ患者数と実患者数の関係を、シンプルな式で確認していきましょう。両者を結びつける重要な指標が「1人あたり来院(在院)回数」です。
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入院においては、平均在院日数と密接に関わります。
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外来における目安となる水準を示します。
| 区分 | 外来延べ÷実の目安 | 病院の特徴 |
|---|---|---|
| 急性期・紹介重点型 | 1.3〜1.8倍 | 新規・紹介患者が多く、逆紹介で地域に戻す |
| 地域密着・一般急性期 | 1.8〜2.5倍 | 慢性疾患の管理と急性期が混在 |
| 慢性期・療養型 | 2.5倍以上 | 定期通院・継続管理が中心 |
活用例
200床規模の中規模急性期病院を想定して、実際に数字を入れてみましょう。ある月の外来延べ患者数が18,000人、実患者数が9,000人だったとします。
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つまり1人の患者が、平均して月2回通院している計算ですね。これが3ヶ月後に延べが20,000人、実が9,500人になったとしたらどうでしょう。延べは増えていますが、1人あたり来院回数は約2.1回に上昇。新規患者の獲得というより、既存患者の通院頻度が上がっている、という解釈ができます。
病院でのシナリオ
200床規模の急性期病院・X病院での経営会議のシーンを覗いてみましょう。事務長が外来データを説明しています。
| 良い例 | 悪い例 | |
|---|---|---|
| 会議での報告 | 「延べは18,000人、実は9,000人。1人あたり2.0回で前月と同水準。実患者の新規比率は12%で、地域連携の成果が出ています」 | 「延べ患者数が18,000人で前月比+500人。順調に増えています」 |
| 議論の深さ | 新規・再診の構造まで踏み込み、外来機能の方向性を議論できる | 「増えた」「減った」の表面的な議論にとどまる |
| 意思決定 | 逆紹介推進・新患受け入れ強化の具体策が打てる | 具体的な打ち手につながらない |
月次レポートでも、延べ患者数と実患者数を並べて表示することで、経営層が外来の実態を立体的に捉えられるようになります。
指標を読む際の注意点
- 延べ患者数だけ見ると患者の広がりが見えない
同じ人が頻繁に来ているだけで、新規の獲得ができていない可能性があります。 - 実患者数の集計期間に注意
月単位・年単位で「実」の数え方が変わります。年間実患者数は、月間実患者数の単純合計ではなく、重複を除いた人数です。ここを混同するとミスリーディングな数字になってしまいます。 - 診療科ごとに比率の妥当な水準が異なる
内科系は通院頻度が高く、外科系は低い傾向があるため、診療科横断で同じ基準を当てはめない。 - 入院の「延べ在院患者数」と外来の「延べ患者数」は別物
会議で議論する際、どちらの話をしているかを明確に区別する必要があります。 - 新規・再診の内訳が見えない指標は不完全
実患者数を、初診・再診・継続通院に分解して見ないと、外来機能の評価はできません。
どの会議・帳票で見るか
- 経営会議(月次・四半期)
- 外来運営会議・診療科部長会
- 月次経営レポート・診療実績報告書
- 病院指標レポート(厚労省・自治体報告用)
- 地域連携室の月次活動報告
- 診療科別収益分析レポート
- 病床管理日報・週報(入院の延べ在院患者数)
明日からのアクション
Lv.1(今日中)
- 直近月の延べ患者数と実患者数を並べて確認する
外来・入院それぞれで両方の数字を電子カルテや医事システムから引き出し、自院の比率を把握しましょう。 - 診療科別に1人あたり来院回数を計算してみる
科ごとの患者層の違いが見えてきます。最も比率が高い科・低い科を特定するだけで気づきがあります。 - 月次レポートのフォーマットを確認する
延べ患者数しか載っていないなら、実患者数も並記する提案を準備しましょう。
Lv.2(1週間以内)
- 過去6〜12ヶ月の延べ・実の推移をグラフ化する
トレンドを可視化することで、新規獲得の動きと再診頻度の変化を切り分けて議論できます。 - 実患者数の新規・継続の内訳を集計する
初診患者数、6ヶ月以上来院がない患者の再開数なども見ると、患者の入れ替わりが立体的に見えます。 - 地域連携室と数値を共有する
紹介患者数と実患者数の新規比率を突き合わせて、連携の成果を見える化しましょう。
Lv.3(1〜3ヶ月)
- 延べ/実比率の自院KPIを設定する
戦略(紹介重点型なのか地域密着型なのか)に応じた目標値を経営会議で合意し、月次でモニタリングする体制を作りましょう。 - BIツール・ダッシュボードに組み込む
診療科別・曜日別・新規/再診別に延べ・実患者数を可視化し、経営会議で活用できる形に整えます。 - 外来機能の戦略レビューを実施する
延べ・実の構造データをもとに、自院の外来機能(紹介重点型/一般外来型)の方向性を議論する場を設定しましょう。
関連用語
- 平均在院日数
延べ在院患者数を、新入院数と退院数の平均で割って算出する入院期間の指標。 - 病床利用率
延べ在院患者数を許可病床数×日数で割った、病床の稼働状況を示す指標。 - 新患率(初診率)
外来実患者数のうち、初診患者が占める割合。新規獲得の状況を示す。 - 再診率
外来延べ患者数のうち、再診患者が占める割合。リピート率の指標。 - 紹介率・逆紹介率
地域連携の活発さを示す指標で、新規実患者の流入・流出に直結する。 - 外来単価
外来収益を延べ患者数で割った1回あたりの収益指標。 - 1人あたり来院回数
延べ患者数を実患者数で割った、患者の通院頻度を示す指標。 - 病床回転率
一定期間に1床あたり何人の患者が入退院したかを示す指標で、実患者数の動きを反映する。
まとめ
延べ患者数と実患者数。一見、似たような言葉ですが、見ている世界はまったく違います。延べは「病院がどれだけ動いているか」、実は「どれだけの人に医療を届けているか」。両方を見ることで、初めて病院の本当の姿が浮かび上がってきます。
大切なのは、どちらの数字を上げることが目的ではなく、自院の戦略や地域での役割に照らして、両者の関係性が妥当な水準にあるかを問い続けることなんです。延べが増えても実が伸びていないなら、地域への広がりが止まっているサイン。実が増えても延べが減っているなら、患者の定着に課題があるかもしれません。
数字は、見方を変えると違う物語を語り始めます。まずは、自院の延べ患者数と実患者数を並べて眺めてみることから始めてみてください。きっと、今まで気づかなかった病院の姿が見えてくるはずです。
※本記事の制度・指標に関する記述は一般的な解説です。最新の診療報酬点数・係数等は改定が頻繁なため、厚生労働省告示・中医協資料で最新情報をご確認ください。

